突然の羊飼い理論
小鳥がさえずり潮風香るテラスで、藤の椅子に座った少年が物憂げに呟く。
「誰を暗殺すれば世界は平和になるのかなあ」
なぜはてな匿名ダイアリー(以下、増田)を主戦場としていた自分がブログに直接投稿するかというと、たぶんはてなブックマーク数(以下、はてブ)を集めようとすると、吊るし上げの形になるからだ。増田でそれをやるのは主義に反する。
なぜスルー出来なかったかというと、似たようなケースをたびたび見かけるからだ。それはタンポポを刺身の上に載せる職場であってもそうだ。未来の自分が読んだときに、少しでも省みることができるように、書き残して公開しておきたいと思った。
誰が突然羊飼いになれば良かったのか
暗殺は「誰が」「どのように」が重要になってしまうし、トラックに轢かれたら転生しそうだ。発狂や出奔というのも不穏な響きがある。引退ではすでにしてネットゲーム界隈では違う単語として使われているし、隠居も似たおもむきだ。そこで、自分は「ある日突然仕事を辞めてニュージーランドで羊飼いになってしまった人」と言うケーススタディをもとに、突然の羊飼いというワードを用いることにしている。
にしても、どうしたらよかったんだろう。
上記の記事には結論めいたことが書いてあるが、ポイントはたぶんこの一文にある。
過去のどの時点で、だれが突然すべてを投げ捨てて羊飼いになってしまったら、防げたんだろうか。
前提を整理する
- Twitterでゲームを攻略する人たちが集まった
- ゲームは、8人で臨み、全員がある一定以上の技量がなければ攻略できない
- 募集要項は「技量なしでも向上心があれば良い、協力してクリアを目指す。常識的なマナーは持って」
- 一か月たってもクリアできなかった
- クリア目的派閥と仲良くしたい派閥があった
- DPS(Damage Per Second)の確認を嫌がられたことがある*1
この上で、あるきっかけがあり、『お互いをブロックしあう最悪の結末』を迎えた。
- Bさんは、客観的と思える確認方法で、誰が総ダメージ量に貢献していないかを明らかにした
- Mさん(記載者を便宜上Mとする)は、Bさんから個人的に相談を受けた
- Aさんは(Bさんの伝聞によれば)総ダメージ量に貢献していない
- BさんはLさん(リーダーを便宜上Lとする)に上記の内容を伝えた
- Lさんは「犯人探しをする人が居るチームにはいられない」とリーダーを降り、チームから抜けると宣言した
- Bさんは「自分が当該者である」とチームから抜けると宣言した
- Gさん(Mさんから見てチーム内で一番うまい人を便宜上Gとする)が「Aさんが貢献していないだろう」と発言した
- 相互にブロックしあう結末になった
さて、防げばよいものは文脈から「相互にブロックしあう結末」だとわかる。
それを防ぐ「突然の羊飼い」には誰がふさわしいだろうか?
誰でも良いが、いつでも良いわけではない
8人全員の協力が必要なゲームで、だれか一人が抜けてしまったら、それは終わりだ。常に2軍がベンチを温めていてレギュラーを狙って熾烈な争いが起きているわけではないからだ。AさんでもMさんでもBさんでもLさんでもGさんでも、残りの3人の誰でも良い。問題は、いつ、だ。
これはわかりやすく、「Lさんがチームから抜けると宣言する前」だとわかる。この後だと、Lさんは少なくともBさんに不信感を持つからだ。さて、では不信感を持つのはどのタイミングか。「BさんがLさんに『Aさんが総ダメージ量に貢献していない』と伝えた」ときだ。その直前までに誰かが羊飼いになればいい。
羊飼いにならずに防げただろうか
勝利条件を上方修正してみよう。「誰も抜けずに相互にブロックしあう結末を防ぐ」にはどうしたら良かっただろうか。
最初に明確にしておきたいのは、これは募集要項に「向上心」という定性的な単語を用いており、誰かが一定以上の技量に到達しない場合、ゲームの性質上かなり高確率で起こったであろう症状だということだ。Mさんは他の記事を読む限りでは問題解決能力が高くコミュニケーション能力もあり、そして自省し向上し続ける人物であり、おそらくは自分よりもかなり聡明な人物だ。
そのうえで、「今回の」トラブルを潰すのであれば、MさんがBさんを止めれば起こらなかった。
たった一言「Lさんに伝えるのはやめよう」と言えばよかった。
予め定めておくことはできるだろうか
Mさんは『問題解決方法は問題が起こる前に決めておくべき』との教訓を得たとのことだが、おそらく失敗すると思う。
なぜならば、Twitterの募集要項はかなり明確で、確かに「向上心」という単語に責を負わせることはできるものの、ではもっと明確な契約であれば良いかと言えば、暗黙の前提条件である「ゲームを楽しむ」が難しくなる。*2
このトラブルは、いろいろな要素をそぎ落として解決策らしきものを提示してもあまり意味はないのではないかと思う。周辺情報である「Aさんがとても良い人であった」や「Bさんはこのメンバーでクリアしたかった」という部分こそが本質的ではないかと思うからだ。
つまり、「Aさんを傷つけてしまった」「Bさんが傷ついてしまった」「Lさんがとても怒っている」という部分が結果になるのだ。みながAさんを好きだったはずなのに、結果皆が傷ついてしまった。
かならずすり合わせは必要になる
もし自分が関連するチームで似たような状況になったときに対応するには、たぶんポイントが3つある。
- 向上心の理解に差があり、「クリア目的派」と「仲良くしたい派」がいた
- DPSの確認を嫌がられた(つまり、強行しなかった、そのタイミングではDPS確認をしないことがチームの合意になった)
- Lさんがリーダーシップを持って、DPS確認の実施を行うのではなく、ほかの人が実施し、結果の報告から入った
名ばかりリーダーだったとしても、少なくとも「Lさん、やっぱりこの8人でクリアしたい。だからチームの動きを良くするためにツールを使って練習ポイントを見つけたい。犯人探しではなく、あくまでも強化合宿に向けての調査だ。だからチームみんなにその説明をしたい。なんとかとりなしてもらえないか」と持っていく必要があった。(たとえ事前にツールを使っていても)
この場合でも、それはやっぱり犯人探しだ、それには賛同できないと激怒していたかもしれないが、Lさんに対してのリーダーへの相談事項になる。Lさんはリーダーを抜けるとまでは言わなかったと思う。少なくともLさんの顔を立てているからだ。
チームとして、一度は確認しなかったDPSのチェックをするのであれば、それは勝手にやるのではなくチームとして対応すべきあった。これには明確な理由がある。建前だとしても「8人でクリアしたい」が大前提になるからだ。
単にクリアしたいのならAさんを追い出せば良かっただけだ。そうはしたくない、Aさんも含めてクリアしたいと思っていたのであれば(消極的かもしれないが)チームでやらないとしたことを、勝手に実施すべきではなかった。
「今回の」トラブルは、「8人でクリアしたい」が「8人全員が納得する方法でクリアしたい」ではなかったところに肝がある。
どのような目標を掲げてもブレてはいけないこと
究極すれば、この手のゲームでの解決策は2つしかない
- 「Aさんを含めた8人でのクリアを目指し、結果としてクリアできないことを良しとする」
- 「Aさんを傷つけても構わないから、クリアを目的とし、場合によってはチームを解散して編成しなおす」
Aさん抜きでの成功と、Aさんを入れた失敗と、どちらを選択するか、というポイントに帰着する。
これに、たとえ失敗してもAさんが入っていることが重要だと即答できないのであれば、やはり「この8人でのクリア」は建前なのだ。「俺のやり方でやればAさん入りでもクリアできるはず」というのは、相手の人格がないNPC(ノンプレーヤーキャラクター)には通じても、生身の人間相手の対応とは少し違う。
問いの立て方が違うと、結論も違う
とまあ、ここまでの話は全部建前で長い前置きだったのだが、人間は思ったことを余すところなく表現できることは少ない。
そして感情や理性は矛盾しても当然だ。一貫性を常に保ち続けるには努力がいるが、逆に言えば普通はそんなに矛盾なく自身をコントロールはできない。
だから「この8人でクリアしたい」「クリアできないと悔しいから何としてもクリアしたい」「上達しない人には上達してもらいたい」「でも良い人を傷つけたくない」これらは相互に矛盾しようとも当然に同居できる。
平たく言えば「クリアするための上達を全員で成し遂げたいのだが、どうすれば良いか?」が問いになり、答えは「上達してもらいたい人に、上達してもらうように動機づける」だ。この場合プレゼンすべきは、責める糾弾する、誰がこの戦闘で悪かった、ではない。
卑近な例で恐縮だが、あるゲームのいわゆるエンドコンテンツと言われるものの身内専用の攻略サイトを作った人が居る。それは基礎的なことから立ち居振る舞い、ショートカットから判断のタイミング、ストップウォッチを使っての時間管理や、ゲームマップを描いた出現位置予想、移動からコマンドの想定まで、ありとあらゆることに及んでいた。それはすべての人間の役割を事細かに描いたものになって、かつ、そうせよという指示ではなく、あくまでも情報として盛り込んでいっていた。ポイントは、あくまでも身内専用で書いてあるのは「その身内のチームがやったこと、いまやっていること」を書き下していった点だ。いわゆる攻略サイトの最適な効率優先の内容ではないものがポイントになっていた。つまり、明らかに無駄な行動であると熟達者が判断できることも攻略として載せたのだ。すると、各々行動はどうすれば最適化を考えてみようと、自分で書き換えていくことができる。
大変な労力であり、はっきり言って企業系の攻略サイトや一般の人のブログの記事のリンクを読め、の方が効率は良かったはずだ。
だが、大変な苦労をしてエンドコンテンツを乗り越えた彼らは、深い満足感とともに交友を一層深めた。(いわゆる戦闘を楽しむ人がエンジョイするコンテンツを楽しんだり、逆も行うようになり、交友が深まっていた)
完全なチームなど無い
リーダーが無能である、Lさんが癇癪持ちだから仕方がない、や、Aさんがそもそも下手くそなのがいけない、と言っても仕方がない。世の中のチームでの仕事は多かれ少なかれそう言ったことの連続だ。
そういった時の(どうしても苦労するがそうするしかないポイントは)相手の理解しやすい形と相手の望むポイントで訴えかけることだ。プレゼンテーションは、相手を変えないのであればする意味はあまりない。このまま1年も2年もクリアできないのは嫌だ、だからこのチームで勝ちたい、やり方を変えようというのは単なる我儘だ。同様に、クリアしたいと考えているのに練習しなかったり効果的な練習方法を拒否するのもやはり我儘だ。事前の合意に機械的に従う契約でなければ、それは常にすり合わせ続けるしかない。
結論
「大好きなAさんと8人でクリアするのが重要であって、たとえクリアできなくても構わない」というスタンスをとるのでなければ、認識のすり合わせの努力は続けるべきだったし、できることはたくさんあった。それをしなくてよい苦労ととらえるのであれば、やはり下手くそなAさんには円満に退場してもらう方法が対応になる。
しかし、自分自身も「なぜこうすれば効率よくタンポポを刺身の上におけて楽ができるのに」と思いがちだ。
効率が悪くてもチームの合意が必要な局面はあり、人間が異なる以上、どうしてもすり合わせは発生する。
そして、突然の羊飼いが発生しても、それを笑って受け流せる体制に、一歩でも近づく必要がある。